思考と餡の沼

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【感想文】きっと、澄みわたる朝色よりも、【ネタバレしかない】

お朱門ちゃんのゲーム作品として通算4作目、メインでの関わりとしては3作目の作品。


私としては、いつか、届く、あの空に。 黒と黒と黒の祭壇に続く3作目となります。

予約購入していたものの、まとまった時間を取って一気にやりたいという思いからずっと手を付けられずにいましたが、とうとう1つ終わりました(発売から一体何年経ってるんだ……ヒェェ)。

 

ネタバレが多分に含まれていますので、プレイする予定のある方は、プレイ後の再訪問をオススメします。

それでも読まれる方は続きをどうぞ。

 

まず、本作の簡単な説明を。

作風等:期待を裏切らないいつものお朱門ちゃん*1ゲー

 

音楽:序盤はどのBGM(特に各キャラのテーマ)もどことなく"重たさ"を感じさせ、とっつきにくい感じが否めませんが、全て終えた後は、どのメロディが何を意味するかが感じられるようになり、「ああ、やっぱりお朱門ちゃんゲー最高だな」と思わせてもらえます。

 

キャラ:これもいつも通り。すべてのキャラクターに縁を持たせ、かつ縁の元となる名前を重視する点は言わずもがな。主人公は万能でありながらその価値に気付かない鈍感。メインヒロインは無論主人公にべったりで非の打ち所がないタイプ。全キャラが過去に因縁を持つ。各々に展開上の役割をしっかり持たせられており、また個性もはっきり出ています。

後述のために、語弊を恐れず主要キャラを説明しておきます。ネタバレも良いところですね。

笹丸:主人公。四君子が一。強烈な過去を抱える。前世はひよの夫。

ひよ:メインヒロイン。四君子が一。過去に強いトラウマを抱える。前世は主人公の妻。

蘭(アララギ):四君子が一。主人公と過去相思相愛。現在も想いを寄せる。

春告:四君子が一。主人公の実姉(2章終盤まで秘匿)。

若:物語の傍観者(1章、2章)。笹丸とひよの前世における孫。紅葉伝説における鬼女呉葉の娘。

 

ルート:一本道。ある意味でループもの。選択肢の数はいつ空。程ではないが少ない。
ちなみに、下手するとハマります(お朱門ちゃんゲーでは一切攻略サイトを見ない私は4時間くらいハマりました)。

 

テーマ:優しさとは何か。(後述)

 

背景:紅葉伝説(900年代,信州)、泣きべそ鬼(作り話?)、メビウスの輪

 

超展開:いうほど超展開になりませんでした。1章から2章への移動はゾクッとしましたが。

 

 

1章「きっと、澄みわたる朝色よりも、
「その手の中に――あなたが欲しかったものは、ありましたか?」

 

タイトルに対するこの言葉でこの章は語り尽くせました。

なので本章に関して以下は蛇足に他なりません。

 

本章は、メインテーマとなる舞台の徹底周知*2と、主人公の求めた物語*3の完結を示しています

そして四君子が一、アララギアララギであるがゆえの主人公との1つの物語の結末を示しています。ギャルゲーのキャラとして攻略不可であることに憤りを感じている方も多数居ますが、アララギアララギである以上、この物語を避けてはアララギ自身を踏み躙った作品になると私は考えます。だからこそ涙が止まらなかったし、2章への移行に凄まじい憤りを感じました。聞いてないって?いや、これだけは言わせてくださいよ。だからこそ3章での若に対する主人公の気持ちが痛いほど分かったんだから。タイトルに呼応する文章を見つけてくるために一章終盤のみやり直しましたが、本当に辛いんですって。。

参考:アララギ未遂事件後のセリフ抜粋。
「あたしは誰よりも笹丸ちゃんが好き。でも、あたしが誰よりも笹丸ちゃんを好きだってわからないと、あたしはダメなんだ」「でないと、それがわからないと、自覚できないと、あたしはあの娘に会わせる顔がない」「ごめんなさい……こんな、偽善めいた女でごめんなさい」「でも、これがあたしなの。それを見なければ、それを考えなければ笹丸ちゃんのものになれる」「でも、そんな目を背けたあたしじゃ笹丸ちゃんと一緒にいれない」「あたしじゃないあたしじゃ、笹丸ちゃんに失礼だよ……!」

 

2章「今、確かに此処にいるあなたと、」
「再びめぐり合えた奇跡を一緒に噛み締めさせてください」

 

本作のメインテーマであり、ひよゲーがひよゲーたる骨頂。
主人公とひよを始めとする、各キャラの過去が露呈します。
彩生祭を通じて仲間意識が研ぎ澄まされたところに、
「他者に対する優しさを抱くことで痛みを伴うとしてもなお優しさを抱き続けられるか」という大きな問い(呪い)が投げかけられます。すなわち、優しさを抱くことで、憎悪の気持ちが溢れ出て、これを自分の心に留めてしまうと替わりに自らの心を痛めつけてしまうという世界に変貌します(泣きべそ鬼の昔話)。
呪いが始まることで、同時に主人公とひよの前世(紅葉伝説)が語られ始めます。
憎悪の感情を垂れ流す者はその世界に耐えられず次々と消えていき、我慢する者もまたその後を追うことになります。ここで、生き残れるのは他人との一切の絆を断った者のみです。
主人公等は、彼ら以外との絆を弱めることで他の者よりも長く生き永らえますが、五十歩百歩に過ぎません。結果として、主人公とひよは結ばれ、長年の時を経て思いを遂げますが、呪いの例外とはなり得ず、彼らもまた枯れていきます。
これが若が求めた物語の完結であり、また泣きべそ鬼をなぞった結果となります。

以上のことから、若が泣きべそ鬼として語られていると捉えるのが自然だと考えられます。呪いの開始と紅葉伝説の回顧の開始が同時期であるのは、泣きべそ鬼たる若の後悔・自責の念、優しさに他なりません。

 

なお、この章の最後の主人公の選択によって、泣きべそ鬼の完全な再現となるか、未完となるかが分かれますが、そこはあまり重要な位置付けとはされていません。

 

3章「出逢いの数だけのふれあいに、」
「優しさが繋がっている事を」

 

1, 2章の謎解き、つまりこの世界の理についての解説パートと言っても過言ではありません。
だからこそ始めに「この章は蛇足だ」とナレーションが入ります。
そのナレーションの思惑通りに終始しないので1つの物語として成り立つわけですが。
結果として、ナレーションの主体は若であることがわかります。
本章は、この作品が紅葉伝説のその後の物語を描写したものと表明した章であるとも言えるでしょう。


4章「この手は繋がっている。」
この章のタイトルは、1~3章のタイトルとを結ぶものであることはもちろん、全キャラの記憶が連続していることからも、1~3周した世界との繋がりを暗喩しているものとも考えられます。
1~3章の記憶を有した各々がどのように歩み直すかというエピローグにあたり、
それぞれが為した記憶を踏まえてどう生きていくかの決意表明の章になります。
ちなみに、半ちゃんと青妹の決意がすごく沁みました。


主題
「――ソレのカタチは人それぞれ異なる。
そんなことを思い始めたのは、いったい、いつからだろうか?」

1章、4章はこの文章から物語が始まります。 

 

ソレは優しさのことを指すのでしょう。
・優しさは、先天的なものなのか後天的(人から連鎖されてくるもの)なのか
・優しさと甘やかすことの違い
・何を以って優しさを持つことになるのか
・優しさは偽善に過ぎないのか
以上のような疑問が物語中何度も問い掛けられます。

 

その優しさゆえに優しさに対して疑問を持ち懐疑的になった若と、好きという感情ゆえに優しさを持ち続けるひよ。優しいがゆえに誰に対しても優しさを持ち続ける蘭、自分の優しさは甘やかしていることと変わらないという春告、そして自分の優しさはそもそも優しさですらないという主人公。

作者が本作を「ひよゲー」と言う理由も此処にあるように私は思います。

 

優しさとは何なのでしょうか。

 

雑感

・1章と4章のひよと蘭の対となるやり取りが本当に良かったです。これを見るために本作をやったんじゃないかと思うくらいに。「――もう一度、あたしと乾杯、してくれない?」ァァァ……

 

・1章中盤~終盤の4人が結束する辺りからはさくさく進みます。例えば私が睡眠時間を毎日1時間にまで削ってやろうとする程度には。

 

・お朱門ちゃんの博識っぷりが怒涛のように出てきます。言葉遊びの多様っぷりも同様。この知識量と哲学的な思考、あるいは行間を読めない人、表層的な言動から登場人物の心情を感じ取れない人には辛い作品であることは、いつ空と変わらないかそれ以上かもしれません。心情描写については、主人公が"鈍感"な設定だけに、周りの指摘を使うことにより分かりやすくしてくれています。

 

・序盤から核心的な心理を踏まえた伏線が張り巡らされています。客観性を失うと読めなくなりますが、主観性を失うと、若と同じ視点での傍観しか出来なくなります。

 

・タイトルについては、本作で重要な数である四君子、四季に掛けた4つでなっています。タイトルを繋げても何となく違和感を抱くのは私だけでしょうか。3章タイトルが浮ついた感じがします。上手い解釈があればぜひ教えてくださいお願いします。

 

・泣きべそ鬼の話(作り話?)と紅葉伝説の絡み合いはお見事としか言えませんでした。
読者のフォローで長老が直接的に「泣きべそ鬼の再現だ」というシーンはちょっとどうかと思いましたが、更にフォローとして彼をアレな人として作中で扱うことで読者に昔話をなぞり上げることから目を逸らさせ、それとなく脳裏に残すよう仕向けた手法は素晴らしかったです。

 

・各キャラの存在自体に伏線を張ることに定評のあるお朱門ちゃんですが、今回赤組の先生には初期の赤組のカタチを維持する他の役割がとても弱かったように感じますし、体調を崩すタイミングの早さ、呪いの発症の早さは腑に落ちないところです。

 

・蘭と若の父、春告と英雄、菊と失われた秋との関連があまり語られていなかった点が非常に心残りです。蘭については頭取と若の父との関連は推測できますが、春告と英雄の関連はどうなっているのでしょうか。また秋をテーマとし、メインヒロインを菊とした理由は伝説以外に何らかの意味合いがあるのでしょうか。読了時にはあまり気にならなかったのですが、感想を纏めている内に気になって仕方なくなりました。

 

最後に読者様にとっては非常にどうでもいいことだと思いますが言わせてください。
それでも私はアララギ派です。

*1:作者:朱門優氏の愛称

*2:いつ空の前編と同じ位置付けとも思えます

*3:四君子の再結成